ゴロゴロアンカーを自作した話

ゴロゴロアンカーを自作した話

最近、実家に帰ると若い頃の母方の祖父に似てきたと言われる。昔の祖父を見たことないからピンとこないんだけど、小さい頃の僕はかなりのおじいちゃん子だったから、そう言われて悪い気はしない。

「ねえ、じいちゃん。どうしたらじいちゃんみたいにかっこよくなれるの?」

「なんだ、おれみたいになりたいのか。そうだなあ。正直に生きることだな。自分に対しても人に対しても。」

物知りな祖父は幼かった頃の僕に色々なことを教えてくれた。今思えば、子供に対して結構難しいことも言ってた気がする。

もう何年も前に祖父は亡くなったが、若い頃には今の僕みたいにバイクに乗っていたらしい。だけど、ある日盗まれてしまったらしく、それっきり乗らなくなってしまったそうだ。

そんな話もあって、僕がバイクを購入したときには盗難対策について真剣に考えた。

盗難対策として最も有効な手法の一つに地球ロックと呼ばれるものがある。ガレージや庭の土間床のコンクリートにアンカーを仕込んで、そこにバイクを繋ぎ止めるというものだ。

ただ、会社の寮に住んでいる僕には駐車場の床を一度破壊してアンカーを埋め込む訳にはいかない。そこで、地球ロックほどではないが、効果の大きい対策として以下のようなものを見つけた。

コンクリートの塊にアンカーを仕込んでそれにバイクを繋ぐという商品だ。プロの窃盗団に対しては効果は薄いかもしれないが、抑止力にはなるだろうし、何も対策を取らないよりずっと気持ちが楽になるはずだ。

ひとつ問題なのはその価格である。正直、バイクを買ったばかりで貯金を使い果たした僕には到底手が出せる代物ではなかった。

どうしたものかと悩んでいると、むかし祖父と一緒に祖父の家の玄関前に土間コンクリートを打設したことを思い出した。

「ねえ、じいちゃん。じいちゃんはなんで何でも自分で作ろうとするの?」

「おれの小さい頃には自分の欲しいものは自分で作るしかなかった。貧しかったからな。だけど、自分で作ることで覚えたことがいっぱいあるんだよ。」

買えないなら作ればいい。僕は、かつて祖父が教えてくれたコンクリートの作り方を思い出しながら、ゴロゴロアンカーを自作することにした。

〜ゴロゴロアンカーの材料〜

まず最初にコンクリートを構成する材料は以下の4つである。
①セメントペースト
②細骨材(砂利)
③粗骨材(石ころ)
④水

ちなみに、コンクリートの構成要素から③の粗骨材を抜いたものが、モルタルと呼ばれるものになる。

①〜③はホームセンターで個別に入手することも可能だが、それらの配合のバランスが少し面倒である。最近では既に程よいバランスで混ぜ合わせた商品も売られているので、今回はコレを利用する。

①〜④の材料に加えると望ましいのが「鉄筋」である。鉄筋を仕込んだコンクリートはいわゆる「鉄筋コンクリート」と言われるもので、鉄とコンクリートが互いの弱点を補うことで強度やヒビ割れに対してより有利になるのである。

今回に関してはアンカーをコンクリートに定着させると言う目的にも一躍買ってくれる。

庭の土間床なんかにはメッシュ状に組まれた専用品があるが、加工性に優れた針金で代用することにした。

次に作る上で必要となる道具を揃える。
①型枠(ペール缶)
②コンクリートを練るための容器(デカイバケツ等)
③コンクリートを混ぜるスコップ
④表面を仕上げるコテ

コレらも全てホームセンターで入手可能だ。道具を含めても材料費は数千円程度で済んでおり、本物に比べてかなり経済的だ。

材料が揃ったら、さっそく作業スタートだ。

〜ゴロゴロアンカーの作り方〜

まずは針金を組む作業。均等に並べるのがベストだけど、意外と面倒でぐっちゃぐちゃになった。まあ、どうせ隠れるので問題じゃない。「細かいことは気にするな」じいちゃんもたしかそんなこと言ってたような気がする。

アンカーも針金にしっかりと緊結して、簡単に引き抜かないようにしておこう。

組んだ針金はペール缶に固定する。ペール缶と針金がくっつくとそこから錆が出るので3cm程度の離隔を取ると良いだろう。

次にコンクリートを練る作業だ。コンクリートが固まるのは化学反応なので、材料を均等に混ぜておく必要がある。

デカイバケツでよく練ったコンクリートをペール缶の中に詰める。作業に夢中で写真を撮ってないんだけど、セメントが舞い散って周囲が灰色の地獄みたいになる。絶対に外でやるべきだ。

ペール缶に詰める時には、スコップや棒でよくつつくと上手く充填されるはずだ。

ペール缶いっぱいまでコンクリートを詰め込んだら、コテで表面を滑らかにする。これが結構難しい。1日も経てばガッチガチに固まる。

案の定、表面がザラザラになってしまった。もしも、じいちゃんに見せたら笑われてしまうかもしれない。それでも、盗難防止の役割は充分に果たすはずだ。

ここまでの一連の作業は本来外でやるべきである。だけど、会社の同僚にコンクリートを練っている姿を見られたら、きっと変なあだ名とかつけられるので、仕方なく自室で作業を実施した。

その選択が大きな事件を引き起こすことになるなんて、この時の僕は予想だにしなかったんだ。

〜ゴロゴロアンカーの運び方〜

ものを作るのに夢中で、部屋から運び出す手段を全く考えていなかった。

僕の部屋からバイクの停めてある駐車場に行くには、外部通路を通るのが最短ルート。自作ゴロゴロアンカーは約40kgと重い上にかなり持ちづらい形状なため、人のいない夜中を見計らって、ゴロゴロと転がして運ぶことにした。

通路に人影がないことを確認して、ゴロゴロアンカーの移動を始める。思ったよりイージーだ。

ところが、僕の目の前に階段が現れた。

ほんのちょっとした階段なんだけど、この時ばかりは僕の行手を阻む断崖絶壁のように思えたんだ。

一段ずつ、ゆっくり降ろしていくしかない。そうやって細心の注意を払って階段に差し掛かった次の瞬間だった。

コンクリートの塊が持つ位置エネルギーは僕のコントロールをいとも簡単に振り解き、階段を一気に転げ落ちていった。

かなり大きな音を立ててしまった。

少しの間息を止めてじっとしていたが、誰も部屋から出てくる様子はない。とにかく、そのまま急いで駐車場まで転がして行って、なんとかたどり着くことができた。

〜外部階段破壊事件〜

翌日、会社についてしばらくすると、寮長の先輩社員からこんなメールが届いていた。

完全に僕が昨日コンクリートを落っことした階段である。どうやらあの後、外れてしまったようだ。これはヤバい。

次の日には、老朽化が原因だろうということになって、建物各所の劣化調査を業者に依頼する騒ぎにまで発展してしまった。

そうやって話が大きくなる中、僕は知らん顔をして、ほとぼりが早く冷めるのを祈っていた。しらばっくれようとしたんだ。

居心地の悪い嫌な感じがした。

暗い気分を振り払いたくてバイクに乗った。

何も考えずに何時間も走り続けた。

気が付くと、静岡と長野の県境の町まで来ていた。

昔、祖父が住んでいた家のある町だ。

今はもう誰も住んでいない家に着く。

玄関前のコンクリートはあの日のまま、まだひとつのひび割れも入っていなかった。

「じいちゃん久しぶり。おれも結構大人になったよ。若い時のじいちゃんに顔がそっくりらしいんだけど、どうかな?」

「・・・」

「今日はバイクで来たんだ。じいちゃんも昔乗ってたって言ってたよな。なんてバイクだったっけ?」

「・・・」

「最近さあ、昔教わったやり方でコンクリートを練ったんだよ。ほら、写真見てくれよ。まあ、じいちゃんよりは下手だけど、結構ちゃんとできてるだろ?」

「・・・」

「運んでる時に落っことしちゃってさ、寮の階段壊しちゃったんだ。ははは。笑えるだろ?」

「・・・」

「それで寮の人達に迷惑かけてんだけど、自分がやっちゃったって、言い出せずにいるんだ。」

「・・・」

「かっこ悪いよな。」

「・・・」

「じいちゃん、おれ大事な用事を思い出しちゃった。また来るから、だからその時は昔みたいに色々教えてくれよ。」

翌日、僕は朝一で寮長の先輩の席に向かった。

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コメント

  1. 短編小説みたい。笑
    これ、haqに転載したいです。笑

  2. 絵文字は映らないんでした

  3. good luck

  4. 小説家になって欲しい!
    なんかウルっとしてしまいました(笑)

  5. 小説家になって欲しい!
    何かウルっとしてしまいました(笑)

  6. 2回も入っちゃったけど消し方が分かりません(°▽°)スミマセン…

  7. 気にしないでください

  8. 気にしないでください 

  9. 芥川賞狙ってる?

  10. 続きがきになる。

  11. めっちゃエエ話(*´∀`*)じぃさんもきっと笑ってくれてますよ
    マジさんカッコイイです‼️俺なら一生知らん顔です

  12. >みなさま
    読んでいただいてありがとうございます。